大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和33年(う)837号 判決

控訴人 被告人 杉山馨

弁護人 山内甲子男

検察官 神野嘉直

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役壱年に処する。

原審並びに当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人山内甲子男並びに被告人各提出の控訴趣意書に、それぞれ記載するとおりであるから、ここにいずれもこれを引用する。

弁護人山内甲子男の論旨第一点の一、について、

起訴状記載の本件公訴事実は、いずれも着服横領となつているにもかかわらず、原判決が訴因変更の手続を経ずして、これをいずれも費消横領と認定していることは、所論のとおりである。しかしながら、本件において、検察官主張の着服横領といい、原判決認定の費消横領というも、いずれも被告人が原判示友田正勝及び志づこと同志づ子より売却方の依頼を受け、原判示青田篤長並びに加藤清行に対して売却した原判決にいわゆる住宅並びに局舎の各売買代金を原判示日時頃、同人らからそれぞれ交付を受け、右友田正勝らのため、預り保管中、当時該金員を、それぞれ不法に領得したという事実に係るものであつて、両者は共に刑法二五二条一項の横領罪に属し、かつ、その間不法領得意思実現の態様を異にするところはあつても、被告人が原判示日時頃前示の各売買代金について不法領得意思の実現行為があつたという具体的事実関係において、両者に異るところはないばかりでなく、着服横領とあるのを費消横領と認定しても本件における被告人の攻撃防禦になんらの消長をきたすものではない。されば、原審が着服横領の起訴に対し、訴因変更の手続を経ずして費消横領と認定しても、所論の違法があるとはいえない。

同第一点の二について、

所論は、公訴事実(一)ないし(四)には、青田篤長より交付を受けた各金員を着服横領したとあるのに、原判決は、これをそれぞれ青田わかなより交付を受けた各金員を費消横領したものと認定し、(五)(六)の各公訴事実(論旨に、(四)(五)(六)の公訴事実とあるのは、(五)(六)の誤記と認める。)については、加藤清行方において同人から交付を受けた各金員を着服横領したとあるのに、原判決は、これをそれぞれ加藤寛明方において加藤清行から各交付を受けた金員を費消横領したものであると認定しているのであつて、公訴事実と原判決認定事実との間には、横領の目的物を異にし、原判決には、刑訴法三七八条三号に該当する違法があるという。しかしながら、本件記録並びに原判決引用の各証拠によれば、本件起訴の対象となつている各横領の目的たる金員も、原判決が認定した各横領の目的たる金員も、共に前記一について説明したとおり本件住宅並びに局舎の売買代金として被告人が原判示日時ころ、相手方買受人たる青田篤長並びに加藤清行からそれぞれ支払いを受けた金員に係るものであることは明らかであり、起訴状に記載するところと、原判決の認定するところとの間に、所論の(一)ないし(四)については、現実に、この金員を被告人に手交した者を、(五)ないし(六)については、その各交付を受けた場所を異にするところがあるが、そのことの故に、被告人が各横領した金員の特定性をいささかも害するものではないから、所論は、とうてい採用できないものである。

同弁護人の論旨第二点の一について、

所論は、原判決摘示の事実冒頭に、被告人は、「自ら右局舎の売却仲介の労をとり相当の金員を入手せんと企て」というが、そこにいう相当の金員とは、いかなる意味か不明であり、更に、これを売買の仲介手数料をこえ、売却代金相当の金員を入手する意図のものと解するならば、被告人は、売買代金受領のとき、すでにこれに対する横領の犯意があつたものというべく、原判決が金員費消のとき、はじめて横領の犯意を生じたものと認定するのは矛盾であるという。なるほど、後でも判断するとおり、原判決には不用意かつ余剰の記載が多く、所論の「相当の金円を入手せんと企て」とあるのも、果していかなることを意味するものか不明であるが、その前後の記載に徴すれば、右は、原判決の認定した各費消横領の動機とみるべき事実を記載したものであるから、それが売買仲介の手数料をこえるものであるかどうかが明らかでないからといつて、未だ理由不備の違法があるものとはいえず、更に、被告人が、仮りに本件住宅並びに局舎の売却代金を、前記友田正勝らに交付せず、これを領得しようとする意図が当初からあつたものとしても、横領罪としては、被告人が交付を受けた金員について、現実に不法領得意思の実現行為があつたとき、はじめて成立するものであるところ、原判決は、その引用の証拠により、被告人が原判示の各交付を受けた金員を費消することにより、はじめて不法領得意思の実現行為があつたものと認定しているのであるから、原判決には所論のごとく理由にくいちがいのある違法の存するものとはいえない。論旨は理由がない。

同第二点の二について、

所論は、原判決の摘示するところでは、被告人の各横領した金円が果して何人の所有に属するものか、あるいは、又該金円を何人のために保管していたものか不明であるというが、なるほど、原判決は所論の各事実についてこれを明示するところがない。しかしながら、原判決が被告人に対する各犯罪事実として判示するところを全体として通読すれば、原判示の各金円は、いずれも被告人が友田正勝、同志づ子らの所有に属する原判示住宅並びに局舎を同人らの依頼を受けその代理人として青田篤長並びに加藤清行に各売却し、その代金として同人らから支払いを受けたものであつて、該金円は、いずれも右友田正勝、同志づ子らの所有に属し、被告人は、同人らのために、いずれもこれを保管していたものであることが明らかであるから、この点の論旨も理由がない。

同第二点の三について、

論旨は先ず、原判決は費消、横領の各犯罪事実を認定するについてその各費消の日時、場所、目的(費消した金員の使途)を逐一具体的に明示しない違法があるという。しかし、原判決は、第一の(一)ないし(四)及び第二の(一)(二)の各横領の事実を判示するについて、その各犯行の日時として、被告人が判示の各金円の交付を受けた日時をそれぞれ判示し、各そのころ、当該受領にかかる金円を費消したと判示しているのであつて、その各犯行の時を判示するについて欠くるところはなく、更に、その各費消の場所を、いずれも愛知県南設楽郡東郷村地内等と判示し、その費消の目的をいずれも埋蔵物発堀事業費等(但し、第一の一事実については、併せて遊興費に費消したことをも判示している。)と判示し、その費消の場所が東郷村地内以外のいかなる場所をいうものか、あるいは、費消の目的が右埋蔵物発堀事業費以外のいかなる使途をいうものか明らかでないうらみはあるが、原判示第一の(一)ないし(四)並びに第二の(一)(二)の各費消横領の事実は、それぞれ各一罪を構成するものとして、原判決は認定しているのであるから、その各一罪を構成する各費消横領の事実について、更に逐一具体的に費消の場所、使途を巨細に判示する必要はなく、また、費消横領の事実を判示するについては、その費消の目的が物の所有者本人のためにするものでなくて、自己の用途に供するものであることを明らかにすれば足りるばかりでなく、原判示事実を、その引用の各証拠、特に、被告人の原審公判廷の供述(第五回一八一頁以下)と対照すれば、前記各金員の費消の場所は、すべて前記東郷村であり、その費消の目的も、すべて被告人の自己の用途、すなわち前記埋蔵物発堀の事業費に充てるためのもので、前示原判決に東郷村地内等、あるいは埋蔵物発堀事業費等とある各「等」の記載は、余剰な修辞語に過ぎないものと認められるので、この点の論旨も理由がない。

次に、論旨後段は、被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書によれば、被告人は、原判示の各費消に先立ち領得の意思を表示したことを窺い知ることができるのであつて、判示各費消はいずれも領得後の処分行為にすぎないというが、所論の被告人の各供述調書は、原判決が証拠として引用しなかつたものであり、原判決引用の各証拠、特に、被告人の原審公判廷における供述によれば、被告人が原判示各費消のときに、はじめて、不法領得の意思を実現したものと認定できないことはないのであるから、所論の理由にくいちがいがあるとの主張は理由がない。(もつとも、本件は、原判決引用の各証拠に、当裁判所において取り調べた証拠を併せ考えれば、後段説明のとおり、被告人は、原判示各費消にさきだち、原判示各金員をそれぞれ着服横領したものと認定すべきものであるが、この点の各事実の認定の誤は、未だ原判決に影響を及ぼすこと明らかなものとはいえない。

同第三点の一について、

所論は、横領罪は、占有者が寄託の本旨に背きその寄託関係を変更することを成立上の要素とするのであるから、横領罪の罪数を定めるについては、寄託関係が一個であるか、数個であるかにより、これをきめるべく、必ずしも不法領得意思実現の事実上の行為の数によるべきものではないところ、本件の寄託関係は単一であるから、たとえ金員費消の事実が原判示のとおりであつても、単純一罪を構成するものというべきで、これを併合罪として処断した原判決は、法律の適用を誤つたものであるという。なるほど、横領罪においては、寄託関係における寄託者と受寄者間の信頼関係の違背という要素のあることは否定できないが、同罪においては、背任罪におけると異り、専ら他人のために、保管中の特定物を、不法に領得する行為が違法とされ処罰の対象となつているもので、いわゆる領得罪にいれて考えるべきものであるから、横領罪の罪数を定めるについては、必ずしも所論のごとく寄託関係の個数を標準として、これを決すべきものではない。ところで、本件において、原判決は、判示第一の(一)ないし(四)、並びに第二の(一)(二)の各金員について、被告人がそれぞれこれを預り、前記友田正勝、同志づ子らのために保管中、原判示各日時頃、当該各金員をそれぞれ費消し、そのつど、これを横領したというのであつて、被告人の原判示各金員に対する領得意思の実現行為は、それぞれ別個のものであり、これを全体として一個のものと認めることはできないのであるから、右各金員の保管関係が所論のごとく、原判示友田正勝、同志づ子らと被告人間の一個の委任関係に基くものであつても、このことから直ちに原判示各横領の事実を全体として、一個の横領罪を構成するものと考えるべきものではない。それ故、論旨は理由がない。

同第三点の二について、

所論は、原判決が執行猶予の期間を経過し、すでに刑の言渡の効力を失つた被告人の前科を、その理由冒頭において摘示し、しかも、本件犯罪は、被告人の前科たる詐欺罪に親しみが深いと判示しているのは、刑法二七条の解釈適用を誤つたものであるという。原判決が、所論のごとく、すでに刑の言渡の効力を失つた被告人の前科をことさら判決文の冒頭に掲記したのは、果して、どのような意図によるものか、明らかではないが、被告人の本件各犯罪の成立を左右するものとして、これを摘示したものでないことは、原判決後段の量刑事情として原判決に説示するところと対照すれば、自ら明らかである。そして、刑法二七条に、刑の言渡はその効力を失うというのは、執行猶予の言渡を取消さるることなく、その猶予の期間を経過したときは、最初から刑の言渡がなかつたと同一の状態に復するという趣旨であつて、各種の法律関係において、刑の言渡に伴う各種の法律効果を帰せられないという意味に他ならないものというべく、被告人の経歴として、過去において刑の言渡を受けたことがあるという歴史的事実そのものは否定できないのであるから、右の規定があればとて、すでに刑の言渡の効力を失つた前科を、ある場合犯罪の情状、特に被告人の悪しき性格を認定する一つの資料(事実上の素材)とすることまで許されないものとは、解することができない。この点の論旨も理由がない。(なお、原判決は、証拠の標目として、検察事務官作成の被告人の前科調書をあげているのであつて、原判決が、どのような必要からこのような措置に出たものか、不明であるが、原判決が、これを、被告人の有罪認定の資料としてあげたものであれば、明らかに、違法かつ不謹慎である。しかしながら、原判決判示事実は、これを除いても優にこれを認定できるのであることを考慮すれば、この点の違法は、原判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえないから、未だ原判決破棄の理由とはならない。)

被告人の事実誤認の論旨について、

所論は、被告人は、友田志づ子(論旨志すとあるのは、志づこと志づ子の誤記と認める。)から、原判示住宅、局舎の売却方の依頼を受けるについて、その売却が当時困難な事情にあつたので、被告人が各買受人から各交付を受けて友田志づ子に引渡すべき金員については、この金員をもつて消費貸借の目的とすることを被告人と友田志づ子との間に契約ができていたのであるから、被告人において該金員を費消したとしても、横領罪の成立はないというのである。しかしながら、原判決引用の各証拠並びに当審における証人友田志づ子の証言及び被告人の供述と、証第三号の被告人から友田正勝あて、昭和二八年八月三一日附金六拾万円の借用証書、証第六号の友田の署名捺印のある金三千百円の受領証、証第五号の昭和二八年九月一日附友田正勝の被告人あて書状各一通によれば、友田正勝、同志づ子らは、原判示日時、被告人に対し、本件住宅、局舎の売却方を委任するに際し、その売却価格を、住宅について金三五万円、局舎について金六〇万円と各指定し、それが、それぞれ他に売却された場合、各買主より被告人に交付される売買代金は、直ちに、これを友田正勝、同志づ子らに引き渡すべきことを約定したものであつて、被告人において、これを他に流用費消するがごときことは、全く許容されておらず、まして、その代金の引渡しを、被告人の主張するように、三年なり五年なり猶予されていたというような事実は、少しも認められないのである。もつとも、前記証第三号の借用証書及び証第六号の受領証及び証人友田志づ子の当公判廷における証言によれば、被告人が昭和二八年八月三一日頃局舎売買代金のうち金一〇万円を、その金員の趣旨を明らかにすることなく、友田方に持参した際、局舎が売却された事実を他から聞知した志づ子から、その売買代金の交付方を督促されたが、被告人としては、当時、住宅並びに局舎の売買代金の大部分を自己の埋蔵物発堀資金に流用費消していたばかりでなく、手許に残つていた残金も同資金に充てる意図ですでにこれを着服し友田らに引き渡す意思がなかつたので、被告人は、むりに志づ子に頼み込んで、被告人が原判示青田篤長及び加藤清行とした本件住宅及び局舎の売買代金合計七〇万円から、すでに志づ子に交付ずみの前示金一〇万円を差し引いた残りの金六〇万円について、同額の準消費貸借契約をすることとし、ここに前記証第三号の借用証書が作成されたものであり、その後、被告人が、右金六〇万円に対する利息として、同年一〇月二日に九月分の、同年一一月二日に一〇月分の利息各金三千百円を、友田志づ子に対し支払つている事実が認められる。)もつとも、同人としては、右準消費貸借の目的となつた金六〇万円は、内心住宅の売買代金を除いて局舎の売買代金の残金だけだと考えていたようであるが、同人においてそのような錯誤があつたとしても、被告人が本件住宅及び局舎の売買を委任されたことに基いて、友田正勝、同志づ子らに引渡しの義務を負うべき金円は、前示青田篤長及び加藤清行から被告人が現実に支払を受けた金円に限られるのであり、前示準消費貸借契約も、この被告人が友田らに対し引渡しの義務を負う金円についてなされたものと認むべきである。)ところで、被告人の当公判廷の供述によれば、被告人は、右準消費貸借契約成立の当時までに、前にも説明したように、原判示各買受人から原判示第一の(一)ないし(四)第二の(一)(二)の各金員を受取つた頃、すでにこれを友田正勝、同志づ子らに引渡す意思なく、ほしいままに着服して、そのつど横領していたものであることが認められるから、その後において、右各金員について準消費貸借契約が結ばれようとも、すでに完成した被告人の右横領罪の成否に消長をきたすものでないことは明らかである。従つて、この点の論旨もとるをえないものである。

弁護人の論旨第四点量刑不当の主張について、

本件記録を検討し、原判決引用の証拠並びに原裁判所及び当裁判所において各取り調べた証拠について考えてみるのに、被告人の本件各犯罪の動機、その態様その他の情状に徴すれば、原判決が被告人に対し、科するに懲役二年の刑をもつてしたことは、必ずしも首肯できないわけではないが、反面、たとえ本件犯罪の成立後ではあつても、いちおうその各横領した金員について、前示のとおり被告者との間に準消費貸借が成立していること、本件において、友田正勝同志づ子の側においても、被告人を信頼するについて、多少軽卒のそしりを免れないものがあつたこと、及び本件のごとき単純横領罪に対する科刑一般の情況を考えあわせると、右被告人に対する原審の量刑は、重きに過ぎ不当であると認めざるを得ない。論旨は理由があり、原判決は、この点において、破棄を免れない。

よつて、刑訴法三九七条に則り原判決を破棄するが、本件は、原裁判所及び当裁判所において取り調べた証拠により直ちに判決することができるものと認められるので、同法四〇〇条但書に従い、更に判決することとする。

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和二八年三月ころ、二男である和知郵便局長杉山幸遠を介し、同人の知人である名古屋市東区相生町一丁目一二番地元川辺郵便局長友田正勝及び同人の母志づこと志づ子より、同人等の共有に係る(1) 岐阜県加茂郡川辺町中川辺八五番地の二所在、宅地六九坪六合七勺、地上建物一一坪四合八勺、木造瓦葺二階建居宅一棟及び建坪一一坪一合瓦葺二階建土蔵一棟(以上の各物件を以下本件住宅と略称する。)を代金三五万円位、(2) 同所在、宅地五五坪六合一勺、地上建物建坪三一坪六合八勺、木造瓦葺二階建店舗(元郵便局舎)及び建坪四合五勺木造瓦葺平家建浴室一棟(以上の各物件を以下本件局舎と略称する。)を代金六〇万円位で、それぞれ売却方の委任を受け、本件住宅及び局舎に関する登記済証、売渡証書、委任状その他登記申請に必要な一切の書類の交付を受けたものであるが、第一、同年五月初旬ころ、前示加茂郡川辺町中川辺八四番地の二青田篤長に対し、本件住宅を代金三五万円で売り渡すこととし(但し、買受名義人は、書類上篤長の息子である青田久男とした。)

(一)  同日ころ、同町中川辺一五七三番地山内佐一方において、青田篤長の妻わかよから右代金のうち、二〇万円を受け取り、前記友田正勝、同志づ子らのため預り保管中、そのころ、これを同町内においてほしいままに自己の用に供する目的で着服して横領し、

(二)  同年六月一〇日ころ、前記青田篤長方において、同人妻わかよから右代金のうち金七万五千円を受け取り、前同様預り保管中、そのころ、これを同町内において、前同様着服して横領し、

(三)  同年六月二九日ころ、右青田篤長方において、同人妻わかよから右代金のうち、二万五千円を受け取り、前同様預り保管中、そのころ、これを同町内において、前同様着服して横領し、

(四)  同年八月二三日ころ、右青田篤長方において、同人妻わかよから、右代金のうち五千円を受け取り、前同様預り保管中、そのころこれを同町内において、前同様着服して横領し、

第二、同年八月一七日ころ、前示加茂郡川辺町中川辺一四一三番地の一加藤清行に対し、本件局舎を代金三五万円で売り渡すこととし(但し、買受名義人は書類上清行の妻加藤鼎とした。)

(一)  同日ころ、同町中川辺二八番地酒類製造業加藤寛明方において、右加藤清行から右代金のうち五万円を受け取り、前記友田正勝、同志づ子らのため預り保管中、そのころ、これを同町内において、ほしいままに自己の用途に供する目的で着服して横領し、

(二)  同年八月二六日ころ、右加藤寛明方において、右加藤清行から残代金三〇万円を受け取り、前同様保管中、そのころそのうち二〇万円を同町内において、前同様着服して横領し

たものである。

(証拠の標目)

(イ)判示事実全部につき、

一、被告人の原審並びに当公判廷における各供述の一部(但し、前者については、原審第五回公判調書中の被告人の供述記載)

一、原審における証人友田正勝、同志づ子の各供述調書(原審第二回公判調書中のもの)

一、証人友田志づ子の当公判廷における供述、

(ロ)判示第一の各事実につき、

一、原審における証人青田篤長、同青田わかよ、同青田久男、同山内佐一の各供述調書(原審第三、四回各公判調書中のもの)

(ハ)判示第二の各事実につき、

一、原審における証人加藤清行、同杉山幸遠の各供述調書(原審第一三回各公判調書中のもの)

(法令の適用)

被告人の判示第一の(一)ないし(四)、第二の(一)(二)の各所為は、それぞれ刑法二五二条一項に該当するところ、右は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情最も重いと認められる判示第一の(一)の罪の刑に法定の加重をし、その刑期範囲内において、被告人を懲役壱年に処し、原審並びに当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文に従い、全部被告人をして、これを負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決した。

(裁判長判事 滝川重郎 判事 渡辺門偉男 判事 谷口正孝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例